0521 猫殺し

 昔住んでた家と似た場所に一人で座り込んでいた。

 足元に私物が転がっていたので、すべて片付けようと思い立ち、何かを掴んだ。DS liteだった。

 ほど近くに懐かしいアドバンスのソフトを見つけたので、久しぶりに遊ぼうと本体に差し込んだ瞬間、DSが火花を散らしてショートした。

 

 飲み物を冷蔵庫にしまおうと扉を開けると、なぜか炭酸飲料のペットボトルでいっぱいになっていた。

 食材に隠すようにして何かの錠剤のシートが挟まっていて、何故か母親のものだと確信する。

 しばらくすると母親が誰かを連れて帰ってきた。父親ではない、高年の男性だった。着物を着ていた。

 母親は私に絵の仕事を紹介しようと、その筋で有名な人を連れてきたようだった。

知らない人だった。

 その老人の話はいかに自らの感性や贔屓の人間が優れていて他がダメかというような話ばかりでどうも気に入らず、ふてくされた返事ばかりしていたら気分を害し、帰ると言い出した。

 母親は慌てていたが、私は丁重な言葉で嫌味ったらしく帰宅を促した。

「君は今まで何をしてきた?その点○○先生は素晴らしい……」

 と言われ、○○先生なんて知らないのに

「趣味が合わないはずだ」と見栄を張って言い返し、後ろめたい気持ちになった。

 

 彼が庭まで出たところで、なにかを思い直したようで、

「作品を買いたい、一度見せてくれ」と言われた。

 最初は訝しんで断ったが、どうやら本気だったらしく、今度は私の方がうろたえた。

 人に見せるような、ましてや売るような作品など一つもないと気が付いたのだ。何度か庭から声をかけてもらったのに、冷や汗をかきながら玄関でじっとしていた。

 みじめだった。

 母親にも呆れたような目線を投げかけられる。

 しばらくしてから庭に出ると、痩せこけた不気味な男が少し遠くの場所で猫を殺していた。

 通報しようと一度家に戻るが、先に注意してからにすべきと思いなおし、庭に戻ってみると、その不気味な男は庭に侵入していた。

 殺した猫の首を掴んでぶら下げ、歩いて近寄ってくる。

 警察に連絡してもらおうと家の中に向かって必死で呼びかけるが声が出ない。声が出ないので誰も気がつかない。 返事が帰ってこない。

 家の中にはもう誰もいなかった。